♪聴覚障害者もジャズにスイング♪

♪耳の不自由な人々が膝を叩き、手を叩き、身体をスイングさせて音楽を楽しむ光景を想像できますか?それがルネこだいらの中ホールで開催された「ユネスコ ポップ フェスティバル in 2012」で実現したのです。

♪小平ユネスコ協会、米国空軍太平洋音楽隊、音響メーカー、ボランティアのコラボレーションで2012年6月、聴覚障害者30人を招いて、会場が感動の坩堝となる素晴らしいポップコンサートになりました。聴衆の一人として熱いコンサートを共有した小平稲門会の荒木彌榮子さん(39文)の「感激の記」とコラボの裏方として奔走したアマチュア・ジャズピアニストでもある石井道彌さん(27文)の「事業顛末記」を搭載いたします。 なお、演奏と会場の写真は、小平ユネスコ協会会長の
野崎耕一氏が撮影、ご提供いただきました。 (ホームページ管理人:松谷富彦)

♪聴覚障害者の皆さんとポップフェスティバルを楽しみました♪

荒木彌榮子(39文)
★小平市のユネスコ協会が、毎年米軍音楽隊を招いてのジャズフェスティバルを開いていることを知ったのは、小平稲門会に入会して2年目の去年、石井先輩からのお誘いを頂いてのことでした。クリスマスコンサートを経て、今回の3回目の参加は、私にとって一番思い出に残る感動的なコンサートでした。

◆耳の不自由な方がコンサート会場で音楽を?

★はじめ、聴覚障害者に音楽を聴いて頂くと言うお話が、良く分かりませんでした。が、企業の申し出で、そのようなことを可能に出来る装置があることを伺って、本当に嬉しくなりました。音楽好きな私にとって、聴覚障害者の方々が音楽を楽しめるというのは、心が踊るお話でした。

★当日は、思いがけず30席の装置の付けられたエリアのすぐ隣に、友人達が席を取って置いてくれました。椅子の上には座布団のような装置が敷かれ、座られた方達の頭に担当者が丁寧にレシーバーを付け、スイッチの説明をしていました。この会は、いつも車椅子が並び、声を上げる障害者達も一緒に音楽を楽しむ賑やかな会なのですが、この一角は静かに静まり、隣に座った私は少し緊張した気分になりました。

★幕が上がると、「パシフィック・トレンズ」のいつものエネルギッシュな演奏が爆発しました。たった5人とヴォーカルの女性1人の演奏なのですが、軍服姿のメンバーの力強い演奏には、毎回完全に圧倒ノックアウトされます。そのリズム感は、さすがジャズの本場と納得してしまいます。そしてつい指や足が自然とリズムを取って動いてしまうのです。

歌うポーラ・ゲッツ曹長
ギターのダニエル・サントス軍曹(左)と
ベースのマイク・シュマウス軍曹
ウイルフレド・クルズ軍曹

◆なんと障害者の皆さんもツービートのリズムを取っている!!

★そうなんです! お隣の障害者の皆さんも、楽しそうにツービートのリズムを取っていらっしゃるのです!演奏者の指示どおり手を打ったり、足でリズムを取ったり、冗談話に楽しそうに笑ったり・・私と同じように聴こえているんだ!と分かった途端、思わず胸が熱くなりました。耳が聞こえない方が音楽を楽しんでいらっしゃる…なんて素敵なことでしょう!

★アメリカの人達は、優しくて人懐っこいです。客席に歌いながら下りてきて、彼らの席に立ち寄って握手をしたりハグしたり、そのたびに若い女の子達が嬉しそうな悲鳴を上げて、まるでアイドルの演奏会のような楽しげな光景が続きました。それを見ている年配の方達も懐かしいジャズを堪能されたご様子で、みなさんお顔を紅潮させていらっしゃいました。

ボーカルのウイリアム・プレスグローブ上級空兵

★後から伺った話ですが、皆さん家ではレコードを聴くことも出来るのだそうです。でも生の演奏会の機会は初めてだったそうで、本当に楽しかったそうです。また是非こんな機会を作って下さいと仰っていました。舞台の上に手話の女性を準備してくださったりと、ユネスコの方達の細やかな心遣いや準備が、こうした素晴らしい音楽会を演出して下さったのでしょう。米軍の皆さん、ユネスコの皆さん、私も障害者の友人達に代わって、是非またこんな音楽会を続けて下さいと心からお願いをいたします。素敵な音楽会を有難うございました。


[パシフィック・トレンズ]
演奏プログラム
第1部

Right Here Right Now(ライトヒア ライトナウ)    /ヴァン ヘイレン
上を向いて歩こう                /坂本 九
Billie Jean(ビリー ジーン)          /マイケル ジャクソン 
I Feel God(アイ フィール ゴッド)      /ジェームス ブラウン


第2部

Route 66(ルート66)           /ジョン メイヤー バージョン
I Can’t Help Falling In Love(好きにならずに いられない) /エルビス プレスリーBesame Mucho(ベサメ ムーチョ)        /コンスエロ ベラスケス作曲  My Heart Will Go On(マイ ハート ウイル ゴーオン) /セリーヌ ディオ


楽  器   名  前   階 級 
バンドリーダー
キーボード
ヴィニー・デュブリノ 曹長
ヴォーカル ポーラ・ゲッツ 曹長
ヴォーカル ウイリアム・プレスグローブ 上級空兵
ギター ダニエル・サントス 軍曹
ベース マイク・シュマウス 軍曹
ドラムス ウイルフレド・クルズ
(パーカッションの名手)
軍曹
サウンド・エンジニア ジョシュ・ヴォイルズ 軍曹

♪コラボレーション顛末記♪

聴覚に障害がある人に音楽を楽しんで頂く (聴覚障害者用の骨伝導体感音響システム)

石井道彌さん(27文)

◆それは???で始まった

★この話を初めて聞いた時には、急には理解できなかった。一口で言えば、「パイオニア(株)の創始者が開発したボディ・ソニックの座席と、ティアック(株)の骨伝導体感方式のイヤホーン(鼓膜を経由せず、耳の前面の骨に震動を伝える方式)を組み合わせて、身体で音を感じるのこと」なのだが。

◆発端

★今年の4月19日。私は、6月30日に開催予定の「ユネスコ ポップ フェスティバル2012」の準備をしていた時に、小平ユネスコ協会の野崎会長とDDKインターナショナル(株)神保社長に同行して、川崎のパイオニア(株)本社を訪問した。そこで初めて「聴覚障害者用骨伝導体感音響システム」の説明を受け、打ち合わせの結果、DDKインターナショナル(株)の協賛とパイオニア(株)・ティアック(株)の技術提供により、今年のコンサートに聴覚障害者30名を無料招待することが決定した。

◆当面の課題と作業

★DDKインターナショナル(株)とパイオニア(株)が作成した資料で、「聴覚障害者用骨伝導体感音響システム」の習得から始めた。今までは、コンサートへの参加を勧誘(入場整理券の販売)することだけでも、苦労してきたが、「体感音響システム」を理解して貰い、その上で聴覚障害者に「参加申込書」を出してもらうことが加わった。果たして連休を控えて、3か月足らずの準備期間でそれだけのことができるかどうか疑問であった。

★パイオニア(株)人事総務部内「身体で聴こう音楽会」事務局の参加者募集の方法を参考にして、4月末までに次のことを決めた。

・聴覚障害者無料招待の条件の決定。  

・印刷物の制作:案内状・参加申込書・無料招待券に代わるべき印刷物。

・混乱を避けるため、聴覚障害者無料招待の事は、全て自宅を担当事務局にした。

・主催者の小平ユネスコ協会のスタッフに、事前に趣旨・手続・当日の対応などを、役員会を通じて周知徹底させることにした。

◆問題点

★どうしたら、小平周辺地域に住んでいる聴覚障害者に「参加申込書」を届けられるか。最初、小平市役所の担当部門を訪ねたが、答えを得られず、福祉会館にある「ボランティアセンタ-」の手話担当者を紹介されたのを皮切りに、友人・知人の紹介で1件ずつ虱潰しにコンタクトした。

★最終的には、周辺の西東京市、国分寺市、国立市、立川市の担当部門・手話サークル、東京都の聴覚障害者教育機関を訪問して、趣旨説明と、聴覚障害者に「参加申込書」を届けてもらうことを頼んで回った。その結果、ルネこだいら中ホールに用意した「聴覚障害者用骨伝導体感音響システム席」は、コンサートの当日、一般席と同様満席になった。

♪写真は、パイオニア(株)の技術者が、会場の座席に「体感音響システム」を設置しているところです。演奏の音響情報は、演奏者が用意したミキサーから、直接パイオニア社のアンプにケーブルで送られ、同社の技術者が各座席の「体感音響システム」に送り、骨伝導で音楽を聴きとる仕組みです。

★体感音響システム席の興奮と感動が周囲の聴衆にも伝わり、多くの方から感動したというメッセージを頂いた。また聴覚障害のある参加者から、ファックス・E-メールで感謝のメッセージを頂き、2か月半の苦労が吹き飛んだ。当初問題点が多く心配が多かったが、結果は満員となり良い反響を得て、成功したといえる。

◆今回のコンサートの成功を振り返って:成功の最大の理由は「人の善意」

★聴覚障害者用骨伝導体感音響システムの目的が、「社会貢献」であって、開発者の善意から生まれたもの。心配の種であった「どうしたら、小平周辺地域に住んでいる聴覚障害者に「参加申込書」を届けられるか」の問題解決の鍵は、前述の通り、関わった人たちの善意が全てであった。

★演奏者の「米国空軍太平洋音楽隊」(当日出演のロックバンド)は、今回のコンサートの趣旨に賛同して、事前に横田基地内での打ち合わせを経て、音響技術から、当日のステージの演出・進行まで、全面的に協力して呉れた。

★特に6月に近くなっても、まだ聴覚障害者からの「参加申込書」が少ない話を小平稲門会の荒木彌榮子さんにお話したところ、締切間際まで、ご友人、知人を次次に紹介して頂き、お蔭で小平周辺地域に住んでいる聴覚障害者からの「参加申込書」がファックスで私の手許に届き、体感音響システム席は満席になった。

★今回のコンサートの成功のために、終始ご尽力下さった荒木 彌榮子さんに、あらためて、心から感謝を申し上げたい。


体感音響システムとは

♪椅子やクッションなど身体との接触部(腰の部分)に振動ユニットを内蔵し、頭部左右(両耳部)にスピーカーを組み込んでいます。これらの振動ユニットとスピーカーを、小型アンプで駆動して楽しむのが「体感音響システム」です。

♪このため、小音量でも、振動ユニットからは臨場感溢れる重低音振動が直接身体に伝わり、本人は大音量の感覚で楽しめます。ステレオ、テレビなどAV機器と組み合わせて楽しむ、健常者用のオーディオ機器として商品化されていましたが、「身体で聴こう音楽会」では、このシステムを聴覚障害者の方に合うように加工して「音楽会用ツール」として使用しています。当音楽会で使用している体感音響システムは下図のような形態で椅子に乗せるクッション(本体)とリモコン、アンプ(クッションのスピーカーと振動板を駆動する)で構成されています。

◆「音楽会用」体感音響システムの使い方

・クッションの耳元部分にスピーカーを埋め込んであり、椅子に座ると、この音を補聴器が広い、通常よりも良く聞こえます。(補聴器は「M]モード)
· 補聴器を「T」モードにして磁気誘導ループを使うと、外部の雑音に左右されることなく音楽がきれいに聞こえます。 · クッションの背中の部分に、低音(120Hz以下)を振動に変え身体に伝えるユニットが入っており、これで低音(ベースの音/リズムの基本)を体の振動で感じていただけます。
· 音量や振動の大きさは、リモコンで調節出来ます。

♪補聴器を使っている難聴、または中途失聴の方からは、このシステムで通常よりも音楽が良く聞こえ、効果があるとの評価をいただいています。

♪補聴器を使っても聞こえない「完全失聴」の方、又は生まれつきの「ろう」の方は、振動だけが伝わり、完全な音楽として認識いただけないと思いますが、テレビの映像を見ながらリズムの振動を感じるだけでも楽しいという感想も寄せられております。

★パイオニア(株)のホームページから「体感音響システム」の解説部分を転載させていただきました。同社ホームページのURL(アドレス)は、右記の通りです。http://pioneer.jp/citizen/karadadekikou/

♪BGM:Pachelbel[Kanon]arranged by Yuuki Aizawa♪

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