小平稲門会地域貢献事業



第1回ゲストティーチャー

小平市立第三小学校6年生授業報告

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◆小平稲門会は、伊藤順藏会長の重点活動施策の一つとして地域貢献事業を展開する準備を進めてきました。その第一弾として、小平市内の小学校における総合学習授業のゲストティーチャー支援活動を2010年度からスタートさせました。第1回ゲストティーチャーが約3か月に渡る準備を経て、10月14日、小平市立第三小学校で、稲門会の4人の会員がゲストティーチャーとなり、6年生児童に対する90分授業が好評理に実施されました。

◆ゲストティーチャー支援活動の立ち上げに当っては、伊藤会長の指示のもと小平市教育委員会OBの穂積健児幹事(42教育)が中心となり、これに中村泰三幹事(41理工)、小山雄一幹事(43法)がサポート役に加わって、受け入れ希望校の三小側とプログラム作りに当りました。

◆その結果、第1回ゲストティーチャーとして、海外事業を展開しているタイヤメーカー出身で海外各地の工場勤務経験者の大島二典さん、政府系金融機関OBの栗原政博さん(39政経)、税理士の久保田節子さん(47文)、全国紙の環境問題担当記者を務めたジャーナリストOBの松谷富彦さん(36文)を選定、職業人としての体験に基づく活動内容、使命など各自が用意した学習資料、教材を使って、児童との質疑応答なども交えながら90分間の総合学習授業を行いました。

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ゲストティーチャーからの報告

「海外での仕事と暮らし」
〜その国の文化と習慣に接する事〜
大島二典(44理工)

★上記のテーマで2時限90分の授業を行いました。最初に頂いたテーマが「海外事業について」という茫洋としたものでしたので、まず何に的を絞るかで苦戦しました。

★海外の仕事では多くの日本人が、日本人と外人の考え方の違いに悩まされているので、これは外せないと思いましたが、なにせ相手は小学6年生なので、余り抽象的な話は理解できないであろうと考え、側面的な話を加えて、下記の3つの柱で話すことにしました。

1.企業が海外に進出する理由 & 海外の仕事で苦労した点
2.タイヤについて
3.オーストラリアについて

★事前に学校から頂いた質問は、海外についての質問が多々ありましたが、当日の質問は、タイヤについての質問が多くなされました。やはり、具体的な物があった方が、圧倒的にイメージしやすいということと理解しました。又、上記の1項は話すほうから見ても内容が少し難しかったかと思います。

★一方、生徒のグループ討議で、「企業が海外に進出する理由」についてをまとめて貰いましたが、内容の説明をする前であるにもかかわらず、生徒たちの答えが、的を射ているのには驚きました。企業、特に担当者のレベルでは、貿易摩擦解消は余り考えていないのですが、何人かの生徒からこの言葉が出てきたのには感心させられました。

★今の小学生は、知識レベルとしては、我々の小学生時代よりかなり沢山の知識を持っていると感じました。


プロジェクターを使って授業を進める大島ゲストティーチャー

★又、授業を進める上で、生徒への課題の設定、グループ討議、発表という過程が、初めてやる者にとっては少しイメージしにくい点でした。かった。本来のメインテーマである、海外での仕事については、結局表面上の理解に終わったのだと思います。生徒たちはいい子が多く、先生が説明すると、あまり分からなくても、質問するのは失礼と思うのか、それ以上は食いついてこないという印象を持ちました。

★この辺の内容について、最後の質問の時にでも、もう少し質問&対話形式で先生と生徒の間で活発な話し合いが出来れば更に良かったと思うし、事前の仕掛けがあっても良いのではないかと考えます。(事前に生徒たちの質問をまとめ、学校の先生とゲストティーチャーが事前に話し合い2〜3の項目を選定しておき、これに誘導してやるなど。もしこれができるのならば、質疑応答の時間を明確に割り付ける。)

★このような授業というのは、我々の小学校時代には想像もできなかったことですが、生徒たちにも何らかの形でプラスになる事は間違いないと考えます。どれくらいお役に立てたかは自信ありませんが、いずれにしても良い体験をさせて頂きました。




「時代に切り込むジャーナリスト!活字で伝える報道の真実とは?」

「文章名人に学ぶ!活字で伝えるポイントとは?」
松谷富彦(36文)

★私が学校から与えられた5時限・6時限の授業のテーマは、上記の二つでした。学校から送られてきた分刻みの詳細な授業進行計画を見て、小学教育現場の苦心と工夫が窺がえ、感心したのですが、6時間目授業のタイトル「文章名人に学ぶ!」にはびっくり。いくら長い人生を経て顔の皮が厚くなっている私でも「はい、私は文章名人です!」なぞとシラフで頷けるわけがありません。

★ですから私の授業を受けてくれる26人の6年生児童と対面した冒頭で「私は全国紙の新聞社でジャーナリストとして仕事をしてきました。先生からいただいた授業計画表に私を文章名人と紹介されていますが、“他の人の文章の直しのプロ”」と訂正をしました。

★私の授業担当の中村真智子先生との事前準備の打ち合わせで、「公害報道の草分けの経験に基づいて環境報道を中心に」との注文を受けていました。そこで子供たちに学校の前を流れる玉川上水の環境をテーマに400字の作文を前もって書いてもらい、それを新聞社の「デスク」の立場で“赤を入れ”(添削)て、授業で講評することになっていたのです。

★新聞、放送、雑誌の報道・編集現場では、「デスク」という重要な担当ポジションがあることは、ご案内の通りです。デスクは、職制上の肩書きではなく、記者が出稿してきた原稿を紙面化する前に文章を整え、チェックしする権限を託された担当記者を指します。普通は副部長クラスのベテラン記者が担当しますが、そのポジションに就いているときは、出稿者が職制上の上司、あるいは先輩であろうとも、その原稿に赤を入れる職務権限が付与されています。

★私も新聞記者生活の半分近くは先輩や同僚、後輩記者の出稿してきた原稿を削ったり、入れ替えたり、付け加えたりして活字化する仕事をしたことになります。“他人の文章直しの職人”と訂正した所以です。

★そして、私は26人の三小6年生児童が書いた作文「玉川上水」を1枚1枚添削し、それぞれに注意点、理由、いい点、悪い点、文章構成、見方などを赤ペンで書き込み、教室で返却しました。一人ずつ講評とアドバイスをしたかったのですが、時間の制約で文章作法、物の見方など共通する長所・短所を持つ作文を5グループに分け、5人の作文を代表例として、全員にコピーを渡し、講評を行いました。

作文の課題である玉川上水を自ら9月14日と10月6日の2回散策して、児童たちと同じ
400字の「季節の便り」とデジカメで撮った川辺の草花をA4サイズの写真32枚で紹介、
一人一人美しい自然環境を守り続けることの大切さを語りかける松谷ゲストティーチャー

★授業の翌日、中村先生から届いたメールに<多岐にわたる内容の中から松谷先生が伝えたいと思っていらっしゃるメッセージを子ども達なりに、キャッチし、感じ取っている姿に、この授業を組んだねらいの本質に迫る思いがいたしました。

特に、赤の入った自分の書いた記事を返却されたときの子ども達の嬉しそうな顔は印象的でした。本校といたしましても、是非このような取り組みを継続させていきたいと考えております。>とありました。時間をかけて一人一人の作文を添削、講評を書きこんだことが間違っていなかったと知り、私は大変嬉しかったことを報告いたします。

★とは言うものの、中村先生への折り返しの返信メールに<お褒めをいただくような授業ができなかったことを反省しているところです。折角、作っていただいた授業進行表に沿おうと思いながら、ほぼ90分ぶっ続けの話し方になってしまい、子供たちがよくがまんして静かに聞いてくれた、と彼らの忍耐に感謝したい思いです。>とお詫びをしました。

★前半のタイトル「時代に切り込むジャーナリスト!」で私自身のチッソ水俣病取材の特ダネ秘話と最近の朝日新聞の「大阪地検特捜部の主任検事による押収資料改ざん事件」のスクープの現場事情を素材にした取材記者の社会体制と法律に抵触するせめぎ合いの中での苦悩の決断と使命感などを子供たちに話すうち、授業時間があっという間に1時間近く過ぎてしまったからです。

★ところが、小学校高学年の6年生児童でも「授業の1アイテムに集中できる限度は15分」と言われる中で、26人が静かに耳を傾けてくれたのは、感激でした。日本人は捨てたものじゃない、という思いを実感させてもらった三小の授業体験でした。

[6年生児童へ贈るメッセージ]

★みなさんが通う小平三小の直ぐ前を流れる玉川上水は、400年前に江戸市内の飲料水を確保するため大ぜいの人々が手掘りで切り開いた人工の川(運河)ですね。完成後、飲料用の上水として、厳しく管理されると同時に新堀用水、野火止用水などの農業用水のための分水路が作られ、武蔵野台地の水田などの耕地開発(新田づくり)が進められたことは、みなさんが作文に書いている通りです。

★そして、上水は今日まで国から都と引き継がれ、大切に守られてきました。その結果、矛盾するようですが、人工の川である玉川上水は、100年、200年、…400年と月日を経るうちに一つの素晴らしい自然を形作ってきたのですね。自然の力の凄さ、それを上手く育ててきた人間の絶えまない努力の成果であり、共生の宝物なのです。だから、先人から引き継いできた玉川上水を美しい姿で後世にバトンタッチすることが、私たちの大事な義務だと思います。上水の流れの中や川辺にゴミを捨てて汚すことが、いかに許されないことか、みんなが考えなければならないことなのです。

★玉川上水を歩くとき、四季とりどりの草花、木の実、チョウやハチ、トンボなどの昆虫が花の蜜を吸う姿に目を止めて目の前の素晴らしい自然を楽しんでみてください。


[玉川上水の小桜橋〜睦橋の川辺に咲いていた花々(10.9.14.撮影)]
ノハラアザミとイチモンジセセリ ツルボ ハナトラノオ クマバチ
ヨウシュヤマゴボウ クズ ヤブミョウガ ヤブラン
ボタンクサギ ヒナタノイノコヅチとヤマトシジミ キバナコスモス ヘクソカズラ
フヨウ フヨウ ムクゲ 玉川上水の右岸遊歩道

[玉川上水の小桜橋〜睦橋の川辺に咲いていた花々(10.10.6.撮影)]
ヒガンバナ(マンジュシャゲ) ツユクサ カタバミ アキノタムラソウ
ミズヒキ チョウセンアサガオ イヌタデ(アカマンマ) ホトトギス
ヤマブキ(八重) イロハモミジ 玉川上水貫井橋付近 玉川上水左岸遊歩道



「銀行の役割って何だろう?」
〜人と人との「信用」と「信頼」〜
栗原政博(39政経)

★先生と生徒56の瞳に囲まれて、じっちゃん先生の90分授業が始まりました。教室のドアーから私の顔が覗くと、子供たちの笑顔も覗いていました。はるか昔の体験しか無いので、やはり緊張していましたが、この笑顔に接し緊張がほぐれていきました。

★生徒達にはなじみの薄いテーマだっただけに、ワークショップを2回折り込み少しでも飽きないよう工夫しました。これは、事前に担任の先生と打合せしたものです。

★ワークショップ@の課題は「銀行って何をするところだろう?グループで話し合おう!」です。お金の流れを通して、家庭や社会とのつながりを説明しました。近頃ではあまり見かけなくなった模造紙に絵を貼った図を使いました。

★先生から、これが案外良かったとの感想をいただきました。メガネをはずしたり、かけたりしながら悪戦苦闘して作った甲斐がありました。でも、やはり今様にプロジェクターを使いながら進めた方が生徒側も講師側も楽なのかなあと思いました。

★ワークショップAの課題は「銀行でお金を借りるにはどんな条件が必要だろう?どんな人なら、希望通りのお金を貸してくれるかグループで考えよう!」です。日常生活の中で「信用のある人」とお金を借りるうえでの「信用」との違いを説明しました。正に体験したことのないことだけに、何処まで理解してもらえたか、はなはだ疑問ではあります。

★締めくくりに「仕事をする上で大切にしてきたこと」を幾つかのキーワードで示しました。(模造紙に貼り付けました。)子供たちへのメッセージを込めたつもりでした。終わった後、何人かの生徒から印象に残ったとの感想があり、ほっとすると同時に嬉しくなりました。

模造紙に絵を貼った図を使いながら銀行の仕組みを説明、授業を進める栗原ゲストティーチャー]

★全体を通し、なじみの薄いテーマだったにもかかわらず、思いの他熱心に取り組んでくれましたし、自分の小学生の頃と比べ今の子達は良く学習しているように思えました。また、講師案内、司会、発表者など役割分担が出来ていて、それぞれしっかり役割を果たしていたのには感心しました。なるべく全員が参加して学習を進めていく指導が根付いているように感じました。

★願わくば、もっと元気な声を出して発表する習慣づけが必要だと感じました。楽しい出会いに感謝して学校を去りました。とにもかくにも、子供たちの明るい顔に接することが出来て、一番楽しくやれて、感動したのは自分自身だったと思います。

★これを機会にゲストティーチャーの声がかかっても、多士済々の小平稲門会です。じっちゃん先生にはことかかないでしょう。4人のゲストティーチャーの授業が終わった後、伊藤会長、コーディネーターを務めた穂積さん、中村さんを交えた反省会を学校から50m先にあるレストランでやりました。全員が、今後この小平稲門会の地域貢献活動の広がりを強く感じながら飲んだ生ビールの味は格別でした。稲門会の皆さん、次はあなたです。この味を堪能するのは!



「税金と国民の生活」
〜税金がなかったらどうなりますか?〜

久保田節子(47文)

★6年生の子供たちにどの程度まで税金、税理士のことを話すのか大変悩みました。最初の1時限で税金の話を、2時限で税理士の仕事と依頼者の話、どうして税理士になったのかを話すことを大筋で考えていました。しかし、日程が近づくにつれ、授業の流れでぶっつけ本番でやらざるをえないなぁ、という結論で臨みました。

★1時限目 まず税金の話で子供たちに税金を知っているかを尋ねたところ、消費税、所得税、法人税、固定資産税という答えが返ってきて、ちょっと驚きました。事前に租税教育のテキストを渡してあったため、予習してあったようでした。

★そのあと租税教育用の6年生用のアニメビデオ 「マリンとヤマトの不思議な日曜日」を20分ほど見てもらいました。子供たちは真剣に見入っているようでした。このビデオは税金の無い世界はどうなるのか、という話で消防、信号機などが機能しなくなってしまうのです。税金で公共の機関が運営されていることを理解してもらいました。小学校でも生徒一人当たり年間838,000円の税金が使われていることをテキストで利用し、説明しました。

「税理士の資格は、いつまでか?」との質問。「 一生続く」と久保田ゲストティーチャーが答えると、「おおー」と児童たち

★2時限目 三小の中村先生が 税理士テストを作成してくださっていたので、それを利用させていただきました。税理士の資格は、いつまでか?  一生続くと聞いて、子供たちは「おおー」という反応でした。依頼者が税理士に求めることについてグループで話し合い、発表してもらったところ、適格な答えが返り、感心しました。かなり理解してくれたようでした。

★最後に、わたしがどうして税理士になったのか、を話しました。「いま、将来やりたいことやなりたいものが無くても、与えられた環境の中で努力していけば、自分の進むべき方向ややりたいことが見えてきます」というメッセージを伝えたかったのです。どの程度子供たちが理解したのかは、わかりませんが、子供たちに話す機会があったことをありがたく思っています。

(写真はいずれも穂積健児さん撮影)


[コーディネーターの感想]

◆講師の周到な準備に感心
ゲストティーチャー事業担当 小山雄一(小平稲門会幹事)

先日は本当にご苦労様でした。講師の皆さんが、周到に準備されていて感心しました。

授業を受ける子供たちも、思っていた以上に行儀よく話を聴いていました。松谷教室の子供たちの文章も整っていたと思います。ただ、授業前に言われていたように、自分としての考えの掘り下げや主張が不足しているように思いました。

★作文のテクニックだけなく、ものを見る目や考える力を養う作文教育が大切ですね。
4クラスを少しずつ見学しましたが、講師の方々の真剣さには打たれました。総じて今回の活動は素晴らしかったと思います。大成功だったのではないでしょうか。

★これからもこの活動を続け、稲門会のボランティア活動の核にしたいものです。

                                

◆「学校支援」から「子ども支援」へ
ゲストティーチャー事業担当 穂積健児(小平稲門会幹事)

初めての試みですので、何かとお気遣いいただいたと思います。それにしても、皆様の周到な準備と堂々とした「先生」ぶりに感心しました。 

★6年1組の「特別支援」の生徒が教室の片隅で一人で何もしていない様子が気になりました。事前にそういう情報もあれば良かったと思います。次回、もし依頼があれば、そういう生徒に対する学習方法も検討する必要があると思いました。

★生徒がおとなしいのが、多少気になりました。海外生活の長い、大島さんがおっしゃっていたと思いますが、これから海外に出る機会が増えていくと思うので、もっと「自己主張」出来る人間になることが重要だと感じました。

★それにしても、小学校の先生はたいへんだなーというのが実感です。現在の日本の学校や文科省は、地域や大人に一方的な「学校支援」を求めていますが、お互い対等平等に、「学校支援」でなく「子ども支援」を考えていく必要があると思いました。

★皆様のおがげで初めての試みも成功裏に終了できたと思います。ゲストティーチャーの方々、お疲れ様でした。


◆随所に工夫が見られた説明資料に感心しました。
ゲストティーチャー事業担当 中村泰三(小平稲門会幹事)

講師の皆さんが50〜60年齢差の6年生を相手に、むずかしい事柄をわかりやすく話されていたのが印象的でした。また、説明資料には随所に工夫が見られ本当に感心しました。
 
★生徒たちもグループ毎に授業の最後に感想発表がありましたが、ポイントをつくものが見られ、今回の催しが成功だったことを実感しました。
 
★初めてのため講師の皆さんが準備にかなりご苦労された様子を反省会でお聞きしましたので次回に向けていろいろな工夫をして行く必要性を感じました。それにしても講師の皆さん 本当にお疲れ様でした。


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